【投資コラム③】なぜ日中韓台はリングに上げられ続けるのか? 〜「ドM職人」がジャイアンの鉄拳をかわす方法〜

前回は、英米による「分断統治(東アジア養豚場サイクル)」の冷酷な仕組みをお話ししました。

「じゃあ、スイスやシンガポールみたいに、日本も最初から中立を気取ってすり抜ければいいじゃん!」と思いますよね。 しかし、現実はそう簡単ではありません。

なぜ東アジアの国々(日本、中国、韓国、台湾)ばかりが、嫌でもジャイアン(アメリカ)のリングに上げられてしまうのか? そして、ふたたびエサを撒かれ始めた日本は、どう立ち回れば出荷を回避できるのか?

今回は、東アジアの宿命と、日本が水面下で編み出した「最強の裏方生存戦略」を解剖します。

1. なぜ東アジアばかりがリングに上げられるのか?

スイスやシンガポールのような小国と、私たち東アジア諸国には決定的な違いがあります。 それは、「ジャイアンにとっても、敵陣営にとっても、絶対に放っておけない2つの重荷」を背負っているからです。

① 腕が立ちすぎる「高すぎる技術力と勤勉さ」(重荷)

東アジアの人々は、良くも悪くも真面目で手先が器用すぎます。 ものづくりをやらせたら世界一の精度を叩き出し、半導体を作らせたら世界の9割を握ってしまう。 これほど腕が立つ職人集団を、覇権を争う大国たちが放っておくはずがありません。「自分の味方に引き入れれば最強の兵器工場、敵に回せば最大の脅威」として、常にレーダーにロックオンされてしまうのです。

② ユーラシア大陸の東端という「地政学のチョークポイント」(武器であり呪い)

日本列島や台湾は、大陸から太平洋へ出る出入り口をふさぐ「天然の防波堤」です。 米中どちらにとっても、「ここを相手に取られたら安全保障が詰む」という急所中の急所。 どんなに「目立ちたくない、平和に暮らしたい」と願っても、地理的にリングのど真ん中にリングポストが立っているようなものなのです。

さらに、数千万〜1億人以上の胃袋を抱えているため、シンガポールのように「金融ハブだけで国民全員を養う」という身軽な芸当もできません。 汗を流して実業を回し、モノを作り続けなければ飢えてしまう――。これこそが、東アジアがリングに引きずり出され続ける根本原因です。

2. 水面下で完成した、日本の「3つの鉄拳回避ルート」

では、この宿命の中で、80年代に手痛いKOを食らった日本はどうしたのか? 戦前のように怒り狂って殴り返す(一億玉砕)のではなく、失われた30年の暗闇の中で、日本は「主役の座を捨てて、舞台裏の支配者になる」という怪我の功名を成し遂げました。

① 「完成品」を捨て、暗闇で「チョークポイント(急所)」を握った

テレビ、パソコン、スマホ、半導体の完成品(CPUやメモリ)のシェア争いからは身を引きました。そこは米中や韓国・台湾に殴り合いをさせておけばいい。

その代わり、日本が日陰の隅っこで無心に掘り続けたのが、地味極まりない「先端素材・化学薬品・精密製造装置」です。

  • シリコンウェハー: 信越化学工業、SUMCO
  • 先端素材: フォトレジスト、超高純度フッ化水素など
  • 半導体製造装置: 東京エレクトロン、SCREENホールディングスなど

「表彰台の1位やトロフィーはどうぞお譲りします。ただし、ウチが蛇口を閉めたら、あなた方の最先端AIもスマホも軍事兵器も、明日から1台も作れませんけれど?」 という、絶対に殴られない急所を握る立ち位置にシフトしたのです。

② 「リングの戦士」から「世界最大の金庫番(大家さん)」へ

「失われた30年」と自虐している間に、日本は世界最大の対外純資産国(海外に持つ資産から負債を引いた額)の座を30年以上キープし続けています。 国内で無理な消耗戦をする代わりに、世界中の優良企業、インフラ、米国債を買い、「世界中で血を流して戦っている奴らから、配当と利息を吸い上げる大家さん」に衣替えしました。

③ 「安全・清潔・真面目」を売る最高峰の補給基地へ

台湾有事のリスクが高まる中、TSMCが熊本に工場を作った理由は明快です。「水が綺麗」「インフラが頑丈」「技術者が真面目」、そして「地政学的に安全」だからです。 覇権を争うのではなく、西側陣営の「最も信頼できる不沈空母兼・最終補給基地」として振る舞い、大国に安全保障のコストを払わせながら最先端産業を国内に呼び戻しています。

3. ジャイアンの鉄拳をかわす「リング外の隠れシェルター」

しかし、これだけ急所を握っても、相手は気まぐれなジャイアン(アメリカ)です。「やっぱりお前が生意気だから殴る」と、いつ理不尽なルール変更をしてくるか分かりません。

そこで日本が意識すべきもう一つの防衛策があります。 それが、「リングの外にいる国たちと、水面下の見えない地下茎でつながっておくこと」です。

米中の殴り合いや、東アジアの殺伐とした養豚場の檻の外には、広い世界があります。

  • 「どっちの味方にも100%はならない」と宣言するASEAN諸国
  • 巨大な人口と胃袋を持つインド
  • 欧州大陸から離れて独自の立ち位置を探るイギリス
  • 資源と若さを持つグローバルサウスの国々

彼らと派手な軍事同盟を結ぶ必要はありません。 「経済、物流、そして庶民の生活インフラ」という実利のネットワークでガッチリ結びついておくのです。

そうすれば、万が一ジャイアンの機嫌を損ねて正面から殴られそうになった時でも、世界中に分散させたネットワークが衝撃を逃がす「巨大な緩衝材(エアバッグ)」になってくれます。

目指すべきは「リングの設営責任者のおじさん」

ものづくりの国・日本が目指すべきは、リングの上で血を流すスターファイターではありません。

「特製グローブを独占供給し、リングの床をピカピカに整備し、試合の手数料を確実にポケットにしまう設営責任者のおじさん」です。

殴り合いは、目立ちたがりの主役たちにやらせておけばいい。 私たちは拍手も歓声も浴びない舞台裏で、冷徹に急所を握り、世界中の仲間と緩衝材を作りながら、設営料を静かに回収し続ける。

これこそが、痛烈なKO負けを経験した日本がたどり着いた、最も現実的で強かな「ドMの生存美学」なのです。

次回予告:しかし、30年後にやってくる「最大の爆弾」

裏方戦略を完成させ、リング外にシェルターを作った日本。 「これで一安心!」と言いたいところですが……実は、ジャイアンの鉄拳以上に恐ろしい「タイムリミット付きの爆弾」が日本を待っています。

それが、「30年後の人口激減(団塊ジュニアの高齢化と退場)」です。

どれほど素材や装置の急所を握っても、国内で支える人間が激減し、内需が縮みきった時、日本はどうやって生き残るのか? そして、私たち個人投資家は、自分の資産をどこへ預けるべきなのか?

いよいよ最終回、【第4回:団塊ジュニア消滅後の日本はどう生き残る? 〜人口半減時代の「国富」と「胃袋コバンザメ投資」〜】へ続きます!

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