⚙️ シクリカル研究:海運編 コンテナ船のお祭り騒ぎが終わり、船長たちが次の一等星を探して夜空を見上げているなう。
海運セクター(日本郵船、商船三井、川崎汽船など)は、世界中の荷物を運ぶのが仕事です。そのため、主人の顔(連動する指標)は、鉄鉱石などを運ぶばら積み船の運賃を現す「バルチック海運指数」や、スマホや家具を運ぶ「コンテナ船運賃」になります。
歴史を振り返ると、ここも凄まじい大天井と地下シェルターを繰り返してきました。
⏳ 海運セクターの歴史的サイクル年表(下書き)
❶【大天井】2007年〜2008年初頭:BRICs・中国爆食による「未曾有の船不足」
- 当時の状況: 鉄鋼編と同じく、中国のインフラ爆発期。鉄鉱石や石炭を世界中から運ぶための「船」が地球上から完全に足りなくなりました。バルチック海運指数は歴史上最高の「1万ポイント」を超え、狂乱状態になります。
- 業績と株価: 船のレンタル料が1日で1,000万円以上に跳ね上がるなどして各社は信じられない莫大な利益を叩き出し、株価は未曾有の大天井を記録。しかし、2008年のリーマンショックで世界貿易が凍結し、このバブルは一瞬で弾け飛びました。
❷【暗黒の大底】2016年:船の作りすぎ & 世界不況の「大赤字」地獄
- 当時の状況: バブル期に大量に発注した船が次々と完成して海に浮かんだ結果、今度は凄まじい「船余り」が発生。運賃は暴落し、バルチック海運指数は過去最低の290ポイントまで大暴落しました。
- 業績と株価: 日本の海運各社は数百億〜千億円規模の巨大な大赤字を垂れ流し、株価は文字通り底の底まで売り叩かれました。「海運株はもう二度と浮上しない」と全員に見放された、深夜の地下シェルター期です。あまりの地獄っぷりに、日本の大手3社(郵船・商船三井・川崎汽船)が生き残りをかけてコンテナ船事業を統合(ONE社を設立)したのもこの時期の苦肉の策でした。
❸【狂乱の超大天井】2021年〜2022年:コロナ禍の「コンテナ特需」と配当利回り10%超え祭り
- 当時の状況: コロナ禍で世界中の港の作業員が休み、コンテナ船が港の外で大渋滞を起こしてストップ。そこへ巣ごもり需要のモノが大量に押し寄せたため、「コンテナの運賃」が数倍〜十数倍に爆騰しました。
- 業績と株価: 3社が統合したONE社から信じられないほどの利益が転がり込み、経常利益がそれまでの10倍以上(各社7,000億〜1兆円規模)に。「配当利回り10〜15%」という狂ったようなお祭り騒ぎになり、株価は数年で10倍近くまで大暴騰しました。
❹【そして現在】2026年:お祭りは閉幕、次の一等星へ……
- 現在の状況: コロナの物流混乱はすっかり解消し、一時的に紅海情勢などの地政学リスクで運賃が跳ねる場面(プチお祭り)はありつつも、大元のコンテナ船の短期運賃は下落傾向へ。各社とも業績の減額修正などを発表しはじめ、あの狂乱の「配当利回り10%超え」の花火は完全に消え去りました。
- 株価のリアル: たとえば日本郵船(9101)や商船三井(9104)は、直近の絶頂期から見ると、すでにじわじわと下り坂の楽屋へ向かい始めています。
📝 「テスタさん」と商船株
💡 なぜプロの猛獣狩りディーラーは海運を好むのか?
以前、高名な猛獣狩り系個人投資家のテスタさんが「僕は海運株をデイトレして稼いだ(特に川崎汽船をよく使っていた)」と仰っていました。
これ、シケモク投資家(じっくり待つ派)からすると「えっ、あんな浮き沈みの激しいやんちゃな株を?」と思うかもしれませんが、実は超・理にかなっているんです。
大手3社の中でも、川崎汽船(9107)は伝統的に「発行済みの株数が他の2社に比べて少なめ」だったり、コンテナ特需で得た莫大な利益を使って「これでもか!」というほどの超絶ド派手な自社株買いや増配を仕掛けてきたりした過去があります。
つまり、「とにかく値動きが軽くて、1日の間で上にも下にもジェットコースターのように激しく動く」という、猛獣狩り系デイトレーダーにとっては最高の「おもちゃ(主戦場)」だったわけです。
❌ 【警告】結論:バリュー投資家は海運株に手を出してはいけない
テスタさんのようなデイトレーダーが狂喜乱舞する一方で、私たち「シケモク・バリュー投資家」の目線に立つと、ひとつの冷徹な結論に至ります。
「ぶっちゃけ、バリュー投資家は海運株に手を出さない方がいい。」
なぜなら、海運セクターはバリュートラップ(たぬき親父)のレベルを超えた、「予測不能のモンスター」だからです。私たちがワイド版の四季報を広げて、赤ペンと青ペンで必死に会社の数字を分析したところで、海運おじさんの命運を握っているのは日本の経営陣ではなく、「世界のコンテナが足りるか・足りないか」「世界の景気が良いか・悪いか」という、個人の分析を超越した地球規模の荒波(運賃市揮)だけです。こんなのやってたら、マジでお腹いたい!!健康を害する!
⚠️ 海運株がバリュー投資家殺しである2つの理由
- 「下限配当」の命綱がない(あるいはあてにならない): 鉄鋼編でご紹介した日本製鉄のような「どんなに赤字でも年間24円は絶対に出す!」という強固な防護服(下限配当)が、海運にはありません。業績が裏返れば、一瞬で「無配(配当ゼロ)」の極寒の地に叩き落とされます。
- 大底での「PBR」がアテにならない: 資産があるからPBR0.5倍で割安だ!と思って飛び込んでも、船の価値(船価)自体が不況で暴落するため、帳簿上の資産があっという間に溶けて実質のPBRが跳ね上がったりします。
🕵️♂️ スカウトマンきくちゃんの結論
海運おじさんは、地味で堅実な神田の古本屋街のおじさんのような私たちバリュー投資家とは真逆の、歌舞伎町の夜のダンスフロアで一晩に数百万を稼いで翌朝には一文無しになっているような、あまりにも刹那的でやんちゃすぎるアイドルです。
アメリカの諺に「酔った船乗りのように金を使う(spend like a drunken sailor=宵越しの金は持たない派手な金遣い)」という言い方があるのですが、船乗り関係の株も同じく、業績が良い時の金の使い方も、落ちる時のスピードも実にやばいということです。船乗りおじさんには要注意ですね。
「安易な低PBR」や「過去の配当利回り10%」という甘い数字に釣られて近寄ると、骨まで一瞬で削られます。
前回の鉄鋼編などのように、これまでは「大底で待ち伏せしよう!」と書いてきましたが、今回の海運編の結論はこうです。
「コンテナ船のお祭り騒ぎが終わり、船長たちが次の一等星を探して夜空を見上げているなう。……うん、でも、危ないから私たちは地上から星を眺めるだけで、絶対にこの船には乗らないでおこう!夢みる海の男たちは、陸から眺めてるだけがちょうどいい!」

