フラスコおじさんの重くて長い10年サイクルの世界へようこそ
化学・素材セクター(三菱ケミカルグループ、住友化学、三井化学など)をハントする上で、絶対に外せない「主人の顔(指標)」は、原材料となる「原油価格(ナフサ価格)」と、世界中の工場の元気度を表す「製造業PMI(特に最大の輸出先である中国の景気)」です。
今回は、フラスコおじさんたちの歴史の波と、最大のテーマである「バリュートラップ(ただ衰退するダメたぬき親父)」をどう見分けるかに迫ってみました。
⏳ 化学・素材セクターの歴史的サイクル年表
❶【天井】2017年〜2018年:世界同時好景気とスマホ・EV素材バブル
- 当時の状況: 世界中で自動車や機械が売れまくり、さらにスマートフォンや電気自動車(EV)向けの「高度な化学素材(液晶フィルムや電池材料)」の需要が爆発しました。
- 業績と株価: 原材料の油(ナフサ)の価格も安定していたため、素材おじさんたちは空前の大儲けを記録。株価も軒並み数年ぶりの高値をつけ、新橋のガード下で一番いいお酒を飲んでいた絶頂期です。
❷【現在・絶賛大底】2024年〜2026年現在:中国の不動産不況 & 石油化学の「大過剰生産」地獄
- 現在の状況: いま、フラスコおじさんの研究室はまさに「氷河期」です。最大の顧客である中国の景気が不動産バブル崩壊で冷え込み、プラスチックの原料などの汎用化学品が世界中で余りまくっています。さらに中国の巨大プラントが安い素材を大量に吐き出しているため、価格が暴落。(不況の中生き残るために中国国内で中国企業同士が低価格で殴り合いなう)住友化学が歴史的な大赤字を記録するなど、業界全体がボコボコに売り叩かれています。
- 株価のリアル: 多くの企業が「PBR 0.5倍〜0.6倍」といった、驚くほどの低PBRの底で、文字通りカッチカチに凍りついて見捨てられています。
🕵️♂️ スカウトマンきくちゃんの次なる課題:「本物のシケモク」と「バリュートラップ」の見分け方
このカッチカチに凍ったままシェルターで行き倒れている低PBRのおじさんを見つけたら、次にやることは「たぬき親父チェック」です。おじさんが将来大化けする「本物の原石」なのか、そのまま腐っていく「ダメなたぬき親父(バリュートラップ)」なのかを見極めなければいけません。私たちはあくまでスカウトマンであり、慈善団体ではないのですから。
⚠️ 単なる「たぬき親父(トラップ)」の特徴
- ただのプラスチック(汎用プラスチック)しか作れないおじさん 中国勢との価格競争に巻き込まれ、差別化ができずにジリ貧のまま衰退します。低PBRだからと飛び込んでも、そのまま地下の肥溜めに沈んでいくトラップ株です。個性や価値のある技術がないものは中国や途上国に飲まれてしまうという“あるある”は、鉄鋼や半導体などの分野にも言えますね。
✨ スカウトすべき「本物の原石(シケモク)」の特徴
- 「君にしか作れない独自の特殊素材」を持っているか?(高機能化学へのシフト) たとえば、半導体の製造に絶対必要な材料(フォトレジストなど)や、スマホ・EVの最先端フィルムなど、「世界中の工場が、高くても君から買うしかない」という強い職人技(高付加価値製品)に変身中の会社は、次の世界景気の回復期に爆発的なV字回復を見せます。
🛑 フラスコおじさんが低PBRで行き倒れている今は、買いなのか?
「ノン、ノン、ノン! まだまだ絶対に早い! 今はまだ『罠だらけのトラップ期間』。四季報に赤ペンを入れながら、じっと爪を研いで待つべし!」
低PBRだけど「今」買ってはいけない理由は2つあります。
① 業績の泥沼(第2の底:実態の暗黒期)はこれからやってくる
自動車や建機、鉄鋼のコラムでも書いた通り、いまフラスコおじさんたちの世界(中国国内での殴り合い)は最悪の時期を迎えていますが、世界的な「AIバブルの崩壊(全体パニック)」はまだこれからです。もしバブルが弾けたら、いくら低PBRでこれ以上下がりようがないように見えても、市場の全面安に巻き込まれて「理不尽にもう一段、ドカンと売り叩かれる瞬間(第1の底)」が必ず来ます。
② 「たぬき親父」が本当に腐って退場するのを待つ必要がある
不況の初期〜中期は、ダメなたぬき親父(汎用プラスチックしか作れないゾンビ企業)も「僕、低PBRで割安ですよ〜」という顔をしてまだ市場に生き残っています。本当に買い向かうべき瞬間は、不況が長引いて「ダメなたぬきたちが完全にギブアップして減損処理を出し、赤字を全部吐き出しきって、もうこれ以上悪いニュースが出ない」という、本当の絶望の底(地下シェルターの最深部)です。
🕵️♂️ じゃあ、いつ動く? スカウトマンの結論
化学・素材セクターのハントの正解はこうです。 「今は、行き倒れているおじさんたちの胸元から『本物の技術(特殊素材)』という身分証明書を持っている人を探して、四季報のノートに名前をメモしておく【リストアップ期間】。実際に財布を開くのは、2028〜2029年頃、今行き倒れている新橋のガード下すら凍りついてシェルターに運ばれて仮死状態の時である。」
🪣 景気のバケツリレー:化学と鉄鋼は、最後尾!!
景気が良くなるときも悪くなるときも、世中心ではこんな風に順番に波が伝わっていきます。
- 【爆速の主役】半導体・IT(スマホやAIブームが直撃!)
- ↓(波が届くまで:数ヶ月)
- 【中間の主役】自動車・建機(スマホが売れて、工場が建って、車が売れ出す!)
- ↓(波が届くまで:さらに半年〜1年)
- 【一番後ろのいぶし銀】鉄鋼・化学(車やビルを作るために、大量の鉄やプラスチックが必要になる!)
このように、化学おじさんと鉄鋼おじさんは「すべての産業の一番川上(スタート地点であり、景気の波が最後に届くゴール地点)」にいます。
主役たちが「あー!お祭り楽しかった!」と渋谷のNHKホールで紅白のステージを降りて楽屋でメイクを落とし始めている頃に、ようやく「え?今お祭りやってるの?」と大きなフラスコを抱えて新橋の駅前広場に現れるような、圧倒的な時間差(タイムラグ)があるんです。
🐢 なぜ化学おじさんはそんなに「足が遅い」のか?
理由は、彼らが扱っているモノの「圧倒的なスケール感」にあります。
① 巨大プラントは「一度温めたら止められない」
スマホのアプリならボタン一つで配信を止められますし、自動車工場もシフトを減れば減産できます。しかし、化学おじさんたちの主戦場である「コンビナート(巨大な銀色の工場)」は、数階建てのビルみたいな巨大な炉をドロドロに温めて24時間体制で動かしています。これ、「不況だから来週から止めます」というわけにいかないんです。一度止めて冷ますと、次に温めて動かすまでに億単位のお金と数ヶ月の時間がかかるからです。(日本製鉄やJFEなどの高炉が止められないのと一緒ですね)
だから、中国で殴り合いが始まって「素材が余って大赤字」だと分かっていても、しばらくはドロドロの液体をフラスコで混ぜ続けなきゃいけない。結果として、「赤字の期間がダラダラと何年も長引く」ことになります。
② お客さんの「在庫」が切れるまで注文が来ない
世の中の景気が悪くなって、自動車やスマホが売れ残ると、まず完成品メーカーが減産します。でも、その時すでにメーカーの倉庫には、以前買った「プラスチックの原料」や「最先端フィルム」が山積みになっています。 化学おじさんの元に「景気が悪くなったから、もう素材いらないです」という連絡がガツンと届き、さらに不況が明けて「倉庫が空っぽになったから、新しい特殊素材を売ってくれ!」と注文が戻ってくるまでには、数年単位の長い時間差が発生します。これが「足が遅い(サイクルが長い)」のリアルな空気感です。
🕵️♂️ スカウトマンから見た「化学の歩き方」
半導体株が「数ヶ月で株価が2倍!翌年には半値!」というジェットコースターだとすれば、化学株は「3年かけてじわじわ下がり、底の底の沼地で3年カッチカチに凍りつき、次の好景気で4年かけてゆっくり登山する」ようなイメージです。10年単位の大きな大河の流れを眺める盆栽のような世界ですね。まさにジジイ株!!
だからこそ、焦って今財布を開く必要は全くありません。
今のフラスコおじさんたちは、中国からの冷たい風をまともに浴びて、ようやく「新橋のガード下」を通り過ぎ、地下シェルターの階段に足をかけたばかり。まだこれからシェルターでの絶望と孤独の最終カッチカッチタイムが待っています。
これから2028〜2029年にかけて、彼らが「もうダメだ…フラスコ振る力が出ない…」と地下シェルターの中で完全に凍りついてから、ゆっくりとスカウトを始めても余裕で間に合うということのようです。


