ネーミングライツ募集チラシから見えた「教育現場のサバイバル」と無償化の罠

シケモク珍道中

息子の高専の体験会に行ったとき、校舎の壁に大きく掲げられた「新日本電工」や「JX金属」などの民間企業のロゴを見かけました。

「未来のエンジニアを囲い込みにきているのか!?」と最初は企業側の熱心さに感心していたのですが、帰宅して高専のホームページを見ていたところ、ある意外なものを発見しました。

それは、高専自身が作った「ネーミングライツ(施設命名権)募集」の営業フライヤーでした。

人材取得に躍起になった企業側が一方的に押し掛けたのではなく、学校側が「うちの食堂や広場に名前をつけませんか?」と民間企業へ営業をかけていたのです。 国立の学校なのに、なぜ自ら民間からお金を集めているのか?と疑問に思いました。そして、気になって調べていくうちに、日本の教育現場が直面している生々しい現実が見えてきました。

【きっかけは2004年。「官から民へ」の小泉改革】

「国立の学校が民間からお金をもらうなんて、なんだか変だな」と感じる方もいるかもしれません。少なくとも私は、そう思いました。

実はこれ、2004年(平成16年)に当時の小泉純一郎内閣が進めた「聖域なき構造改革」に端を発しているそうです。 国立大学や高専が一斉に「独立行政法人」「国立大学法人」へと組織改編され、それまで国家公務員だった教職員は公務員ではなくなりました。

この改革の最大のポイントは、「親方日の丸で国のお金に甘えるな。市場原理を入れ、自分たちで外部資金を稼げ」という大方針の転換です。 それ以降、国から毎年支給される基礎的な運営予算(運営費交付金)は段階的に削られていきました。

国は「民間の寄付や産学連携、ネーミングライツで自前で収入を増やしなさい」と尻を叩くようになり、文部科学省も自らネーミングライツ導入のガイドラインを作るほど推進するようになったのです。

【屋上の防水が切れている校舎と、ピカピカの学食】

体験会に行った際、ふと校舎を見上げて気になったのが「屋上の防水層の劣化」でした。

築古の戸建てや建物をDIYで直したり維持管理している大家目線で見れば、屋上の防水切れは「雨漏りして構造材を傷める前に、何をおいても最優先で直さなければいけない致命傷」です。 それなのに、なぜ放置されているのか?

理由は極めてシンプルで、「日々の修繕費という名目のお金が、国から全く降りてこないから」です。

国の予算や補助金は、「最先端のAI研究」や「見栄えのいい脱炭素プロジェクト」といった華々しいテーマには付きます。しかし、「雨漏り防止の防水工事」や「壁のヒビ割れ補修」「古びたトイレの洋式化」といった、建物を維持するための地味な修繕費用は真っ先に後回しにされてきました。

学校側が喉から手が出るほど欲しいのは、「〇〇研究にしか使ってはいけない」というガチガチの紐付き予算ではなく、現場の裁量で自由に使える現金(使途自由な資金)です。

だからこそ高専は、企業に施設命名権を年間100万〜200万円程度で買ってもらい、そのお金でボロボロだった学食を綺麗にし、老朽化した設備の維持費を捻出しているというわけです。

【高専vs私立大学無償化:どちらが「健全な戦い」をしているか?】

この高専の泥臭い営業努力を見ていて、ふと考えさせられたのが「大学の教育無償化」をめぐる現在の状況です。

いま少子化が進む中で、定員割れに苦しむ一部の私立大学では、国の修学支援新制度(無償化)や私学助成金といった「公金(税金)」に依存して延命する構図が問題になっています。 学生を確保するために見栄えのいいパンフレットを作り、推薦やAO入試で誰でも入れるようにして定員を埋める。しかし、そこで教えられている内容が、本当に社会や企業から求められているのかといえば疑問符がつくケースも少なくありません。

卒業してAIに仕事をとられた学生たちが、結局望んだ仕事につけず生活保護を求めるような流れになる……なんて想像は、突飛でしょうか??

税金という「他人の財布」に甘えて中身の薄い延命競争をする学校がある一方で、高専はどうでしょうか。

普通の高校は、良い大学に入るための試験のための勉強を3年間やります。 高専では、良い企業ですぐに使える人材を製造するための訓練を5年間やります。 毎日、実験や実習を課し、「入社して現場で手を動かせる本物のエンジニア」を育てています。

だからこそ、新日本電工やJX金属といった実需の企業が、「年間数百万円出してでも、うちの名前を覚えて入社してほしい」とスポンサーに名乗りを上げるわけです。

・国の補助金や無償化マネーにぶら下がり、集客競争に明け暮れる学校(=ダメになる学校) ・産業界が真に求める実力派を育て、企業から直接修繕マネーをもぎ取って自立する学校(=生き残る学校)

どちらの戦い方が、持続可能なのかは、火を見るより明らかです。

【まとめ:実需に応える者だけが、最後に生き残る】

大手ハウスメーカーに高い中間マージンを払って丸投げするのではなく、自分の頭と手足を動かし、知恵とDIYと現場力でコストを抑え、センス良いインテリアや設備で付加価値をつけ、入居者さんに選ばれる部屋をつくる。

高専が知恵を絞ってチラシを作り、自前で施設を維持しようとする姿には、どこか「築古大家の自主管理やDIYに通じる戦い方の精神」を感じずにはいられません。

見栄えのいい補助金や世のブームに甘えるのではなく、目の前の「実需(本当に必要としてくれる相手)」に愚直に応える者だけが、厳しい時代の変化を生き残っていける。

学食のネーミングライツという小さなチラシから、これからの日本の教育現場と、個人の生き残りにも通じる大切な教訓を学んだ気がします。

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