20年以上前、中古の半導体製造装置に関わる仕事をしていた頃、現場で「世の中には本当にいろんなウェハー(基板)があるんだな」と知りました。
当時の私は技術者ではなかったので、難しい理論は正直ちんぷんかんぷん。そんな入社当初、先輩から教えてもらったのが「半導体の製造工程はピザづくりと同じだよ」という例えでした。
ピザづくりでわかる半導体の流れ
- まず、小麦粉をこねて丸くて平らな「ピザ生地」をつくる。(ウェハー製造)
- その上にソースを塗り、チーズや野菜、お肉などの「具材を載せて焼く」。(前工程:回路形成)
- 焼き上がったら、食べやすい一口サイズに「切り分ける」。(後工程:ダイシング・パッケージング)
すごく大雑把な説明ですが、半導体の全体像をつかむにはこれ以上ないほどわかりやすい例えです。
今回は、このピザづくりでいう土台の「生地」にあたる、ウェハーの素材の種類と、それをつくっている世界・日本の代表的な材料メーカーについて整理して学び直してみました。
そもそも「ウェハーをつくる会社」と「チップをつくる会社」の違い
半導体の世界は分業が徹底しています。
TSMCやインテル、ソニー、サムスンなどは「ピザ生地の上にトッピングを載せて焼き上げる会社(回路を焼き付けてICチップにする会社)」です。
今回取り上げるのはその手前、「まだ何も描かれていない、まっさらなピザ生地(鏡面状の円盤)そのものをつくっている会社」です。
素材別ウェハーの特徴と代表的なメーカー
用途(スマホの頭脳、メモリ、通信、EVの電力制御など)によって、使われる「生地の素材」が大きく異なります。
1. シリコン(Si)ウェハー:絶対的な主役
パソコンのCPU、スマホの頭脳、メモリなど、世の中のエレクトロニクスの大半を支える王道の素材です。
世界の上位5社で市場全体の約9割を占める典型的な寡占市場で、特に日本企業2社が世界シェアの過半を握っています。
- 信越化学工業(日本): 世界シェア約30%を誇る首位メーカー。最先端の300mm(12インチ)高品質ウェハーで圧倒的な強み。
- SUMCO(日本): 世界シェア2位。旧・住友金属工業と三菱マテリアルの事業統合で誕生。
- GlobalWafers(台湾): M&Aで急成長した世界3位。
- SK Siltron(韓国): SKグループ傘下。メモリ向けなどに強み。
- Siltronic(ドイツ): 欧州最大手。
2. 化合物半導体(GaAs / InP):光通信・高周波向け
シリコンよりも電子の動くスピードが桁違いに速く、光を効率よく出したり感知したりできる素材です。スマホの高周波部品(RFアンプ)や光通信、顔認証センサーなどに使われます。
- 住友電気工業(日本): 化合物半導体基板の世界的リーダー。特にInP(インジウムリン)やGaAs(ガリウムヒ素)で世界トップクラス。
- Freiberger Compound Materials(ドイツ): GaAsウェハーの世界最大手の一角。
- AXT(アメリカ): 原材料からの一貫体制を持つ大手サプライヤー。
- IQE(イギリス): ウェハーの上に薄膜結晶を成長させる「エピタキシャルウェハー」の大手受託企業。
3. ワイドバンドギャップ(SiC / GaN):EV時代の省エネ素材
高い電圧や高熱に耐えられる次世代パワー半導体素材です。電気自動車(EV)のインバーターや急速充電器、鉄道などに使われ、電力ロスを劇的に減らします。
- Wolfspeed(アメリカ): SiC基板のパイオニアで業界を牽引。
- Coherent(旧II-VI / アメリカ): 高い光学技術を活かしたSiC大手。
- レゾナック・ホールディングス(日本): 旧昭和電工。SiCエピタキシャルウェハーの外販市場で世界首位級。
- ローム / SiCrystal(日本 / ドイツ子会社): 板の製造からチップ加工まで自社で一貫して行うIDM(垂直統合型)。
- STMicroelectronics(スイス/仏/伊): 基板メーカーを買収し、内製化を急拡大中。
- SICC / TankeBlue(中国): 国策の強力な後押しで急成長中の中国勢。
※ GaN(窒化ガリウム) は小型充電器などに使われますが、高価なためシリコン基板の上にGaNを薄く成長させた「GaN-on-Si」技術なども広く普及しています。
4. 酸化ガリウム(Ga2O3)/ダイヤモンド:未来の究極素材
SiCやGaNすら超える性能を持つ、実用化・量産化に向けた立ち上げ段階の次世代素材です。
- ノベルクリスタルテクノロジー(日本): タムラ製作所とNICT発のベンチャー。酸化ガリウム基板の開発で世界をリード。
- EDP(日本): 産総研発のベンチャー。人工ダイヤモンドウェハーの大型単結晶基板を製造。
- Orbray(旧アダマンド並木精密宝石 / 日本): 超精密加工技術を武器に、高品質ダイヤモンドウェハーの量産化技術を開発。
素材別メーカーまとめ一覧
| 素材 | 主な用途 | 世界の主要企業 | 注目される日本企業 |
| シリコン(Si) | CPU、GPU、メモリ全般 | GlobalWafers, SK Siltron, Siltronic | 信越化学工業、SUMCO(世界2強) |
| GaAs / InP | スマホ高周波、光通信 | Freiberger, AXT, IQE | 住友電気工業(世界的リーダー) |
| SiC | EVインバーター、高電圧機器 | Wolfspeed, Coherent, STMicro | レゾナック、ローム |
| 次世代(酸化ガリウム / ダイヤモンド) | 超高圧送電、究極の放熱 | (日本が先行研究を主導) | ノベルクリスタルテクノロジー、EDP、Orbray |
学び直してみて感じたこと
20年前の中古市場では6インチや8インチのウェハー対応装置が主流でしたが、いまやシリコンは12インチ(300mm)が当たり前。巨大なピザ生地を原子レベルの平坦さで作る技術があるからこそ、いまの高性能なスマホやAIチップが成り立っています。
そしていま、EVの普及とともにSiCなどの新素材でも「より大きく、より欠陥なく作る」競争が激化しています。
半導体というと、つい回路線幅(何ナノメートルといった微細化)や巨大ファウンドリの動向に目が行きがちですが、その土台である「ピザ生地(ウェハー素材)」の技術力こそが、日本のものづくりの強みがぎっしり詰まった分野なのだと改めて実感しました。

